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アクセスは悪いけど名峰揃いな南アルプスの南部

私は毎年夏山シーズンにはよく日本アルプスに行っていたのだが、コロナの蔓延を契機にここ最近は行けていない。
この記事はコロナが始まる直前に南アルプスの南部を三泊四日で縦走した時の物だ。
少し前の縦走日記になるが、南ア南部の素晴らしさを伝えたいと思い、当時を思い出しながら書くことにした。
この記事を読んで興味を持ったならば、是非南アルプスに足を運んで欲しい!
南アルプスは北アルプスに比べると、どうにも地味で存在感が薄い。
上高地やアルペンルートの様な一大観光地が無いし、なによりアクセスがかなり悪いのも原因だろう。
しかし、山としての魅力は全く引けを取っておらず、楽しいコースや個性的な山小屋がたくさん有る。
いつも北アルプスばかり行っているあなた! 今年は南アルプスに挑戦してはどうだろうか?
北アルプス同様に広大な南アルプスも、山域は大きく北部と南部に大別される。
北岳や甲斐駒ヶ岳などが有るのが北部で、今回紹介する南部は赤石岳・荒川岳・聖岳などが有り、いずれも3000メーターを超える名峰ばかりだ。
南部の大部分は静岡県に位置し、なんとこのエリアも静岡市に含まれるという。 静岡市って広いのね・・・!
アクセスする場合は東海道新幹線や東名自動車道などが中心になるだろう。
コロナを境に環境が激変した南アルプス南部事情


首都圏の登山愛好家にはお馴染み、毎日新聞社が運行している「毎日あるぺん号」を使い、畑薙第一ダムの臨時駐車場前に降り立つ。
時間は午前5:30頃。
今回もバッチリ眠れなかったぜ・・・ 何故か私は夜行バスで眠れないという困った体質なのです。
寝付けるように色々頑張っているのだが、どうにも駄目で、何故でしょうなぁ。
なお、南アルプス南部には多くの山小屋が有るが、その多くは井川観光協会系列の山小屋と、東海フォレスト系列の山小屋に分かれる。
■聖平小屋(ひじりだいらごや)
■茶臼小屋(ちゃうすごや)
■横窪沢小屋(よこくぼざわごや)
■百間洞山の家(ひゃっけんぼらやまのいえ)
■赤石小屋
■荒川小屋
■千枚小屋
■熊の平小屋
■赤石岳避難小屋
■荒川中岳避難小屋
■高山裏避難小屋
■小河内岳避難小屋
上記に含まれる「避難小屋」にはシーズン中は小屋番さんが常駐し、有料で宿泊対応や物販を行っているのが特徴だ。
かなり絶妙な場所に有るので、縦走する際は是非活用しよう。
で、ここからが重要なのだが、前述の様にコロナを契機に、南アルプスのアクセスや山小屋の運営事情が大きく変化している。
まず、アクセスに使用した毎日あるぺん号だが、当時は都内からこの畑薙第一ダムの臨時駐車場前まで夜行バスとして運行されていた。
また、復路便としてここから都内向けのバスも運行されていた。
しかし、2025年現在は「静岡駅~畑薙第一ダム」間のみの運行となっている。
そう、静岡駅で現地集合・現地解散となっている訳である。 これは不便すぎる。
しかも料金は14,500円 〜 16,500円。 高い! 高すぎる!
当時は都内からの直通便でこれよりも安かったはずだ。
コロナや運転手不足という事情は重重承知しているつもりだが、高い物は高いし、不便なものは不便と言うしか無い。
非常に高額だが、朝7時台の東海フォレストの送迎バスに接続出来るのはこれだけなので、利用価値は有る。
しかし、静岡駅を朝4:15発なので、静岡駅周辺に前泊必須となる。
やはり都内からの直通夜行バスとしての運行が無いのは痛い。
この他にも、静鉄バスが運行する「南アルプス登山線」や、千代田タクシーが運行する「南アルプス登山タクシー」が有る。
どちらも静岡駅~畑薙第一ダム間の往路便・復路便が有り、東海フォレストの送迎バスの午後便と接続するので便利だ。
価格も前者が3500円、後者が6000円と手頃なので、こちらも検討して欲しい。
価格などの運行情報は2025年6月現在の物なので、最新情報は各自確認する事。
また、上記交通機関は、一定数の申し込みが無かった場合に運休となるので要注意。
確実に行きたいなら自家用車を検討しよう。
次に重要な変化は、畑薙ダムから先の送迎バスについてだ。
前述の様にこのエリアの山小屋は主に二つの経営母体に分かれ、それぞれが登山口までの送迎バスを運行していた。
東海フォレストの送迎バスは椹島ロッジまで、井川観光協会のバスは聖沢登山口までのバスを運行していた。
しかし、コロナ以降、井川観光協会は送迎バスの運行を取りやめてしまったようだ。
畑薙ダムから聖沢登山口までは徒歩では遠すぎるため、これはかなり痛い。
椹島ロッジの宿泊者に限り、東海フォレストの送迎バスの復路便にて聖沢登山口で下車出来るらしいが、椹島ロッジに前泊することが必須となり、日程や予算の面でかなり不便だと言わざるを得ないだろう。
最後に山小屋の運営状況に関してだが、コロナが蔓延していた頃は大半の小屋が休業していたが、2025年現在は基本的に営業自体は行っている。
しかし、その内容が大きく変化しているので注意が必要だ。
まず、価格が跳ね上がり、基本的に一泊二食付きで15000円が相場となっている。コロナ前の1.5倍程度だ。
かつては南アルプスの相場は北アルプスの相場よりも少し安めだったが、現在では概ね同額になった様だ。
価格は燃料費等の高騰などで仕方が無いにしても、問題は「食事の提供をしていない小屋が多い」という点だ。
2025年現在だと、井川観光協会系の小屋は全て食事を提供していない。
東海フォレスト系の小屋だと「百間洞山の家」「熊の平小屋」が素泊まり専用となっている様だ。
いずれもかなり山深い場所に有る為、食料を持参しての縦走は重量的に厳しい所だ。
一応レトルト品やカップラーメン等の物販は有るらしいので検討してみよう。
ただし、荷揚げの状況次第では品切れも有り得るので、各自事前に確認すること。
元々アクセスがかなり悪かった南アルプスだが、コロナを境にさらに悪化してしまった。
このままでは登山者が減り、それが山小屋の経営を圧迫し、さらなる値上げや営業縮小という悪循環に陥ってしまう。
1人の度山愛好家として何か出来ることは無いか、色々考えております。
【コース序盤】聖沢登山口から造林地を登る


畑薙第一ダムへは午前5:30頃に到着したが、井川観光協会の送迎バスに乗るためには1時間ほど待ち時間がある。
そこから1時間ほど乗車し、聖沢登山口に到着したのは7:30頃となった。
登山口の周囲は既に完全な南アルプスの山中であり、周囲には林道とガードレールくらいしか無い。
当然ながら一般車の立ち入りは不可なので、送迎バスを使用しない場合は自力で辿り着くしかない。
写真の様に畑薙ダムまでは自家用車で来て、そこから自転車に乗り換えて来ている人も居る様だ。
一般車が入れる最奥の沼平ゲートから聖沢登山口までは、徒歩でおよそ4時間かかる。
歩きやすい林道なので、上高地から横尾までの3時間を考えれば無理な距離では無い。
しかし、そこから聖平小屋まで5~6時間かかる事を考えると、送迎バス無しで行動するのはかなり厳しい。
井川観光協会の送迎バスが無くなった事はかなり辛い!
この林道は落石が多いらしく、かつては送迎バスを落石が直撃した事故も有ったようだ。
現在、東海フォレストの送迎バスに乗車する際は、ヘルメットの着用が義務付けられているとのこと。
(乗客にはヘルメットの貸し出しが有るそうです。)




聖沢登山口は標高1140m。そこから1時間半ほどは檜の植林地を緩やかに登る。
登山道沿いには造林小屋の跡地が点在し、ここが林業の場所である事が分かり興味深い。
このルートの大半は樹林帯を歩くのだが、暫くは標高が低くとても蒸し暑い。
暑さ対策と水分補給はしっかりと行おう!
目指す聖平小屋まではコースタイムで6時間程も有る。 慌てずゆっくりと登ろう。
【コース中盤】急斜面のトラバースと落石多発地帯




中盤くらいまでは急斜面を横切るような形でひたすら登る。
コース自体の傾斜はさほど無いが、左側はかなり急角度で切れ落ちているため、滑落には要注意。
悪天候時やその直後は極力歩きたくないコースである。
このコースは鉄橋や吊り橋が多数有るのが特徴で、時々傾いている物も有るので慎重に通過しよう。




このコースは落石や土砂崩れが頻発するらしく、手すりや橋桁に落石が直撃した痕跡がたくさん有る。
鉄骨を変形させるほどの落石・・・直撃しないことを祈りつつ、慎重かつ素早く通過しよう。


造林地も終わりに差し掛かる頃、最初の吊り橋が登場。
このコースには複数の吊り橋が有るのだが、最初に有る方は「聖沢吊り橋」と呼ぶらしい。
つまり、足下に有るこの沢が「聖沢」なのだろう。
実はこの頃、両足のかかとに靴擦れの兆候があった。
新調した登山靴で挑んだこの山行だが、軽く市街地を歩いて慣らしたつもりだったが、やはり無謀だった様だ。
この後、さらに両足が痙攣するなど酷い目に遭うのだが、この時点ではまだ予兆に過ぎなかった・・・




気が付くと造林地も終わり、周囲はすっかり自然林に変わっていた。
コースも既に半分を過ぎていた様で、程なくして二個目の吊り橋が出現。
足下に転がっていた車輪のような物は、林業で使われていた索道の部品だろうか?


コースの2/3を過ぎた辺りから森が開け始めて空が見える様になるが、ガレ場の急登なども有り油断は出来ない。
この頃、靴擦れは本格的に悪化し、さらに暑さが原因かは不明だが、両足が痙攣するという非常事態に遭遇していた。
下山する事も考えたが、登山口まで何時間もかかるし、そこまで辿り着いたところでダムまで移動する手段が無い為、休息を取りつつなんとか前進を続けることにした。
靴擦れによって痛む足を庇いながら変な態勢で歩く事に加え、暑さと疲労が重なって痙攣を起こしたのだろうか?
無理をすると負の連鎖が起こるという良い(悪い)見本である!
【コース終盤】岩頭滝見台からの絶景と美しい渓流




標識によれば、既にコースの5/7程に到達したようだ。
この付近には「岩頭滝見台」と呼ばれる展望地が有り、聖岳や複数の滝などが見えてまさしく絶景!
標高も2100mを過ぎている事もあり、とても涼しくて快適だ。
ここで昼食を取りつつゆっくり休んだ事で、痙攣の方はなんとか収まってくれたようだ。
いやぁ、本当に助かった。 一時は撤退を考えたが、これなら大丈夫だろう。




岩頭滝見台を過ぎると傾斜は緩やかになり、時々徒渉しつつ穏やかな道を歩く。
途中には鉄橋が幾つか有るのだが、中には増水時に流されたであろう橋の残骸も・・・
この穏やかな渓流が、あの巨大な鉄橋を押し流すほどに荒れ狂う事が有ると言う事だだろう。


このコースで最も特徴的な場所はここだろう。
沢を横切る鉄橋が、まるで飴細工かのように湾曲し、しかも左向きに大きく傾いている。
手すりに手を掛けたら、そのまま左向きに橋桁丸ごと横転しそうな恐ろしさである。
見た目も恐ろしいが、渡る時も恐ろしい。
ドリフのコントの様に、クルッと回転して放り出されそうな恐ろしさを感じる・・・!
もはや直接徒渉した方が良いんじゃないかと思うレベルである。
一体どんな力がこの橋桁をねじ曲げたのか?
恐らくは増水時の濁流と、積雪による重み、その合わせ技だと思われる。
あと、途中に橋脚が無いので、自重でたわんでいるのも有るかもしれない。
幸いにも人が1人乗ったくらいでは横転する事は無さそうだったが、あまり通りたくない場所である。
現在もまだこの状態なのだろうか・・・
聖平のお花畑と聖平小屋




「恐怖の鉄橋」を過ぎると穏やかで開けた場所に出る。 ここが「聖平」なのだろう。
この付近には天然のお花畑があちこちに有り、シカの食害から守るための防護柵も設置されている。
ここまで来れば聖平小屋まではあと少し。 お花畑を堪能しつつ頑張ろう!
このような平坦で開けた場所の事を「○○平」と呼ぶらしい。
北アルプスの「雲ノ平」や「太郎平」などが有名だ。


ここは聖平小屋から1分程先に進んだ所に有る分岐点だ。
右に行けば聖岳・赤石岳方面で、左に行けば「上河内岳(かみこうちだけ・2803m)」や茶臼岳方面である。
なお、聖平小屋では携帯の電波が入らないのだが、この分岐点を上河内岳方面に数分程行った所ならドコモの電波が入る。
小屋からも平坦な道を数分程度の距離なので行きやすい。
こういった電波状況は山小屋のスタッフが熟知しているので、必要に応じて助言を貰おう。




本日の宿である「聖平小屋(ひじりだいらごや)」に到着!
猛烈な暑さに加え、両足の靴擦れと痙攣など、良く無事(?)に辿り着いたものだ。
小屋の前には段々になった拾いテント場が有り、その脇には大きなトイレが有る。
小屋内にはトイレは無く、全ての宿泊者はこのトイレを使う。
聖平小屋の自慢は最高に美味しいという湧き水で、確かによく冷えていて美味しかった。
水質検査でもお墨付きを貰ったらしく、まさに正真正銘の「南アルプスの天然水」である。




正面入り口から入って左側が客間になっており、さらにその奥に冬期小屋が有る。
シーズン中は素泊まり客用の客室として冬期小屋が使われている様だ。


お待ちかねの夕食である。
事前に調べた情報では豚汁が出るらしかったのだが、この時はおでんが出てきた。
他にも肉・野菜・魚・果物など、バランスが取れていて美味しかった。
特に「アマゴの甘露煮」なるものが非常に美味しく、これだけでご飯がおかわりできるほどの味だった。
アマゴはサケ科の淡水魚らしい。 初めて食べたけどとっても美味でした。
みなさんにも是非食べて欲しいところだが、前述の様に2025年現在、聖平小屋を含む井川観光協会系列の山小屋は食事の提供をしていない。
レトルト品やカップラーメン等の販売は有るとは言え、基本的に食料は持参した方が良いだろう。
南アルプス大縦走・1日目を振り返って
前述の様に、初日から両足に靴擦れと痙攣が発生するという非常事態に見舞われた。
猛烈な暑さという気象の影響は有ったものの、そもそも靴擦れは完全に自業自得だし、痙攣もそこに起因している可能性も有る。
もっと準備が万端であれば、少なくとも靴擦れは防げただろうし、痙攣の方も防げたかもしれない。
また、本来であれば下山すべきだったのかもしれないが、下山してダムまで戻るのに6~8時間程かかる事が想定されたため、休息を挟みつつ登山を続行する事にした訳だが、これも正しい選択だったのかは分からない。
実は、聖平小屋で知り合った人達の中に30歳前後くらいのカップルが居たのだが、偶然にも彼らは看護師をやっているという。
彼らは私が靴擦れを起こしている事を知ると、なんと手持ちの救急キットを使って応急処置をしてくれた。
その手際は実に見事な物で、特にテーピングの仕方が絶妙で、非常に勉強になった。
私が勉強不足だったのもあるが、さすがはプロの仕事だと心底感心してしまった。
なにより、こんな場所で初対面の私に対して応急処置を施してくれた事に感謝・感激である。
プロの手による処置は見事の一言で、おかげでその後の三日間、無事に歩き通すことが出来た。
テーピングがほとんどずれたり剥がれたりする事が無かったのも凄い。
山中で困り果てていた私を救ってくれた彼らは、今頃もどこかの山を歩いているのだろうか?
密かに「聖平のナイチンゲール」と呼ばせてもらっているが、本当に感謝しております。
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